竹久夢二 「二の腕」 |
徳川の世、津山藩主森忠政(現在の岡山県津山市)は、ある日、狩猟に出かけた。家来の原十兵衛も、近くの民家に入ってお茶をすすっていた。お茶を運んできたその家の娘を見るなり、娘の美しさ、立ち振る舞いに見せられた十兵衛は娘を気に入り、その後も娘のことが頭から離れなかった。
ついには十兵衛はその娘を行儀見習いとして、屋敷にいれることにした。これがお花である。
十兵衛はたいそうお花をかわいがり、妻があったが、お花に身の回りのこととすべてさせるようになっていた。これを良しとは思わなかった十兵衛の妻は日に日に、隠れてお花をいじめるようになったのだった。
ある日、外から帰ってきた十兵衛に、珍しくお花ではなく妻が食事を用意して待っていた。
「今日は、あなたの好きな小鳥ですよ。」
「そうか。それで、お花はどうした?」
「お花は用事ができて里に行きましたよ。」
十兵衛が一口箸をつけると、にわかに家が鳴り響き、地面が揺れた。
実は小鳥というのは、お花の隠し所であったのだ。
十兵衛が家を留守にしている間、女中と、妻はお花を木に吊るし、力の限り痛めつけ、あげくの果てにお花の隠し所をえぐりとってしまった。
その後、妻はというと、何かに取り付かれたかのように、精神がおかしくなり、一生奇行を繰り返すようになったという。
殿方が思いのまま好き勝手にしている間に、女は苦悩し、裏では女同士の争いが繰り広げられているのである。妻がいるのにも関わらず、好意を寄せられた心優しい女性は泣き寝入りである。
女性同士のどちらの肩をするではないが、ここでは女性の肩をしておこうと思う。